建築シリーズ20:スペインにおけるポルトガルの巨匠アルヴァロ・シザの建築

スペインの隣国、ポルトガルにも優れた現代建築を生み出している建築家がいる。その中でも世界的に評価が高いのが、アルヴァロ・シザだ。シザの主な活動の場はポルトガル国内だが、近年、ブラジル、韓国、スペインなど世界各地で各種施設の設計を行っている。今回は、スペイン国内のシザのプロジェクトをいくつかご紹介したい。

1933年にポルトガル北部の町マトジーニョスに生まれたシザは、ポルト大学在学中から設計活動を始めた。1963年に完成した地元の小さなレストランは今なお世界各地から建築家や建築を学ぶ学生が訪れるなど、青年期から名建築を数々作り続ける非凡な建築家である。その活動、作品が評価され、1992年には建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した。

ガリシア現代美術館 エントランス photo by Eitzel

ガリシア現代美術館 エントランス photo by Eitzel

彼のポルトガル国外のプロジェクトで、傑作の一つに数えられているのがスペイン東北部ガリシア地方の町、サンティアゴ・デ・コンポステーラにあるガリシア現代美術館(Centro Galego de Arte Contemporánea、以下、CGAC)だ。サンティアゴは、その大聖堂を目指す巡礼路が有名であるなど、歴史的な重みのある町だ。CGACは、サンティアゴの歴史遺産であるサント・ドミンゴ・デ・ボナバル修道院の敷地内に建てられた。花崗岩に覆われた威厳のある外観とは対照的に、内部は白い大理石とスタッコ塗り(化粧しっくい)で仕上げられており、自然光を取り入れた室内は明るい空間となっている。この計画に際し、敷地内の庭園の修復もテーマであり、美術館も既存の庭園や地形を尊重するようにデザインされた。建物の内部も素晴らしいが、修道院と美術館の間の庭園も見どころである。

同美術館 内観 photo by joao ordeals

同美術館 内観 photo by joao ordeals

同美術館と修道院の間の庭園 photo by Eitzel

同美術館と修道院の間の庭園 photo by Eitzel

2006年には、バルセロナ郊外のコルネリャー・デ・リョブレガートにスポーツ・コンプレックス(Parc Esportiu Llobregat)を完成させた(*1)。屋内と屋外のスイミングプールがガラス一枚で隔てられてつながっており、天井からの水玉模様に落ちてくるトップライトとともに幻想的な空間を作り上げている。彼の代表作に、先ほどのレストランと同じく地元マトジーニョスに設計したスイミングプールがある。この計画では大西洋に面する海岸に接するようにスイミングプールを設けたことで、プールにいながら海中にいるような感覚を味わうことができる。コルネリャーでは、おそらくマトジーニョスのプロジェクトを念頭に置きながら、建物内部と外部のプールを並べて設けることで同じような感覚を喚起させる空間を設計したのだろう。

近年では2011年に、アンダルシア地方の町グラナダにある世界遺産としても有名なアルハンブラ宮殿の新レセプション施設を設計する国際コンペで一等に選ばれた(*2)。ちなみにこのコンペのファイナリストには2社のスペイン人建築事務所、3社のポルトガル人建築事務所が選ばれたことから、ポルトガル人建築家の実力がうかがえる。このコンペでシザは、これまでの同宮殿内で行われてきた改築、増築のプロジェクトと同様に、敷地の高低差や、既存の建物を十分に考慮した「控えめ」な提案をし、審査員もその点を高く評価した。建物に用いられるコンクリートはアルハンブラ宮殿の色調にあった赤茶けた色素を混ぜたものが利用され、床材も既存の建物のタイルに近いものが利用される予定である。

このように、アルヴァロ・シザは設計に際して常に敷地や周辺の既存建物との関係をいかに作り上げるかに注力していることが分かる。結果として出来上がる建築は、その場所に元からあったかのような謙虚さを持ちながらも、その場所の魅力を最大限に引き立てる媒体となるような建築なのである。

*1: Parc Esportiu Llobregatを撮影した写真家によるスライドショーのページ
*2: 一等案のイメージ図、模型写真などを掲載している地元新聞のページ(スペイン語)

 

全20回でご紹介させていただきました建築シリーズは今回を以って最終回となります。スペインの知られざる建築家や建築作品をご紹介させていただきましたがいかがだったでしょうか。スペインをご訪問の際は、ぜひこれらの作品も訪れてみてください!!

 

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<建築シリーズ記事一覧>

1:現代に完成した「未完の建築」、モンフェリの教会
2:過去と未来をつなぐ作品、アトーチャ駅
3:夢のガラスの宮殿、パラシオ・デ・クリスタルとベラスケス宮殿
4:復元された近代建築の名作、バルセロナ・パビリオン
5:日本の英知を集結した競技場、パラウ・サン・ジョルディ
6:オリンピック開催を待つ魔法の箱、カハ・マヒカ
7:アトレティコ新本拠地はオリンピックを迎えられるか、ラ・ペイネータ
8:「仮設の屋根」で闘牛場をオリンピック会場へ、ラス・ベンタス闘牛場
9:スペインを代表する土木技師トロハの最高傑作、サルスエラ競馬場
10:鉄鋼の町から観光都市へ、ビルバオ・グッゲンハイム美術館
11:カラトラバの魔法と悪夢、バレンシア芸術科学都市
12:屠蓄場を文化施設へ、マタデーロ・マドリード
13:改修プロジェクトの見本市、マタデーロ・マドリード2
14:既にそこにあるモノを分析してデザインする、メディアラボ・プラド
15:展示スペースの運営を手助けするカフェバー、Trinkhalle
16:屋根をいかにデザインするか、サンタ・カタリーナ市場
17:中庭に海を導くトリック、バルセロナ現代文化センター
18:公共建築におけるコスト管理の難しさ、メトロポール・パラソル
19:世界の果てにある現代アートのような納骨堂、フィステーラ墓地

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