建築シリーズ4:復元された近代建築の名作、バルセロナ・パビリオン

前回紹介したロンドンのクリスタル・パレスがそうであったように、当時は国際博覧会、いわゆる「万博」が世界各地で開催されるようになり、それに合わせて記念碑的な建築物がいくつか建設されている。ロンドン万博ではクリスタル・パレスが、パリ万博ではエッフェル塔が、というようにである。万博は、技術や発明品の展示の場から、次第にそこに、人間、文化、環境という人文学的テーマの加味されたイベントに変わっていったものの、万博は常にその時代を象徴する建築物とともにその歴史を歩んできた。

バルセロナ・パビリオン 外観 ©Sandro Maggi

バルセロナ・パビリオン 外観 ©Sandro Maggi

1929年に開催されたバルセロナ万博もその例にもれず、ドイツ出身の建築家ミース・ファン・デル・ローエが設計した「ドイツ館」は、建築史上に名を残す作品となった。「Less is More」(より少ないことはより豊かなこと)、「細部に神が宿る」など、数々の示唆に富む名言を残したミースは、近代建築三大巨匠の一人とされる(他はル・コルビュジェとフランク・ロイド・ライト)。この「ドイツ館」は、浮遊するような屋根とそれを支える十字型の鉄骨の柱、そして大理石の壁で構成され、平面をシンプルに組みあせただけの非常に開放的な空間であった。日本の伝統建築の影響も見られるその空間は、従来の西洋の建築物とは異なり、柱と梁によって構成される「自由な平面」こそが、その内部にあらゆる機能を許容できる、という彼の建築理念を体現するものであった。

内観 大理石の壁とバルセロナ・チェア ©Sandro Maggi

内観 大理石の壁とバルセロナ・チェア ©Sandro Maggi

また、万博では異例だが、 パビリオンは展示品のためのスペースではなく、次の展示へ向けて訪問者が休息するためのものであった。そこにあるのは、大理石の模様、一体の彫刻、そしてミース自身がこのパビリオンに合わせてデザインした椅子のみである(バルセロナ・チェアと呼ばれるこの椅子も家具デザインの傑作の一つに数えられる)。次の展示への小休止の空間だが、ミースはパビリオン内部で訪問者がたどる順路を綿密に計算している。大理石の壁は歩いてきた者の進行を脇にそらし、しかるべき場所に設けられた透明なガラスの先には、切り取られた外の風景が見える。水盤の中に置かれた一体の彫刻も、パビリオンのそれぞれの地点から眺めたときに、その奥行きを十分に感じさせるための仕掛けであった。

内観 パビリオン内に設けられた水盤と彫像 ©Sandro Maggi

内観 パビリオン内に設けられた水盤と彫像 ©Sandro Maggi

「ドイツ館」はこの万博が終了するとともに解体されるが、1983年から86年にかけてスペイン人の建築家グループによって再建された(1983~1986年)。現在ではミース・ファン・デル・ローエ記念館、通称バルセロナ・パビリオンと呼ばれ、内部を見学可能である。

◆ミース・ファン・デル・ローエ記念館
El Pabellón Mies van der Rohe
住所:Avinguda Francesc Ferre i Guàrdia 7, 08038, Barcelona
TEL:(+34) 93 423 40 16
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