今回はバルセロナの旧市街地内、ラバル地区にあるバルセロナ現代文化センター(Centro de Cultura Contemporánea de Barcelona、以下、CCCB)を紹介したい。バルセロナのガイドブックには必ず紹介されているバルセロナ現代美術館(MACBA)は観光客にもよく知られた存在であるが、その背後にあるCCCBについては意外と知られていないだろう。
CCCBはバルセロナ県議会とバルセロナ市役所によって共同運営されており、1994年2月にオープンした。“都市と都市文化”をその主要なテーマとしており、数々の展覧会、会議、フェスティバル、コンサート、映画祭などが開催されている。実験的な新技術にも注目し、分野横断的なテーマ設定に特徴があり、また他の文化センター、美術館などで巡回展なども行うなど、スペインの文化事業で重要な役割を担っている。
今回はその建物に注目したい。CCCBは、約15,000平米の延べ床面積があり、その内4,000平米が展示場に割り当てられている。その他に、オーディトリアム、ブックショップ、複数の多目的施設を備えており、上記の様々なイベントに対応できる建物である。1802年に創設されたバルセロナ慈善団体(Casa de la Caritat de Barcelona)の建物を再利用しており、エリオ・ピニョンとアルベルト・ビアプラーナの両建築家によって改修された。
旧舎は北側に向けてU字型をしており、その北側を地上30メートルの全面ガラス張りの建物で閉じるように増改築している。ガラス張りの増築部分は、エントランス、階段室など、施設の動線としての役割を果たしている。CCCBへムンタレグレ通り、あるいはMACBAの裏手のジョアン・コロミネス広場からアクセスすると、既存の建物とこのガラス張りの建物で形成された中庭に足を踏み入れる。そこで訪問者はガラスに反射して増幅された中庭に不思議な感覚を持つだろう。
さらに、上を見上げるとこのガラス張りの建物のファサードが中庭側に少し折れ曲がっていることに気がつく。その折れ曲がった部分には、バルセロナの街並と地中海が映り込む。平らなバルセロナの町、そして中庭という閉じた空間に身を置きながら、町を見渡し、 海の存在を再確認するという詩的な仕掛けが施されている。
ローマ人が始めた「エスグラフィアド」と呼ばれる漆喰を削って装飾した外壁とガラスという新旧の対比が際立つ改修プロジェクト。そこに都市を見渡す中庭を設けることで「都市とは何か」というこの施設のテーマを知的な方法で忍び込ませている。また、中庭にまず引き入れて、そこから建物内部に導いていること、建物の建設された後に残る、いわば「余剰スペース」がその建築の最も魅力的な場所になっていることも大変興味深い。
<建築シリーズ記事一覧>
2:過去と未来をつなぐ作品、アトーチャ駅
3:夢のガラスの宮殿、パラシオ・デ・クリスタルとベラスケス宮殿
4:復元された近代建築の名作、バルセロナ・パビリオン
5:日本の英知を集結した競技場、パラウ・サン・ジョルディ
6:オリンピック開催を待つ魔法の箱、カハ・マヒカ
7:アトレティコ新本拠地はオリンピックを迎えられるか、ラ・ペイネータ
8:「仮設の屋根」で闘牛場をオリンピック会場へ、ラス・ベンタス闘牛場
9:スペインを代表する土木技師トロハの最高傑作、サルスエラ競馬場
10:鉄鋼の町から観光都市へ、ビルバオ・グッゲンハイム美術館
11:カラトラバの魔法と悪夢、バレンシア芸術科学都市
12:屠蓄場を文化施設へ、マタデーロ・マドリード
13:改修プロジェクトの見本市、マタデーロ・マドリード2
14:既にそこにあるモノを分析してデザインする、メディアラボ・プラド
15:展示スペースの運営を手助けするカフェバー、Trinkhalle
16:屋根をいかにデザインするか、サンタ・カタリーナ市場