建築シリーズ19:世界の果てにある現代アートのような納骨堂、フィステーラ墓地

今回はスペイン北西部ガリシア地方の小さな町、フィステーラにある「納骨堂」についてご紹介したい。

フィステーラ(Fisterra)とは、大地が果てる場所を意味する(finis=終わり、terrae=大地)。サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指した巡礼者たちの中には、旅の終わりにこの文字通り「最果ての地」であるフィステーラ岬を目指す者も多い。巡礼者たちは、この地で身につけていた服や靴を焼いて海に捨てたと言う。12世紀には、終着点の教会としてサンタ・マリア・ダス・アレアス教会が建設されている。また、グラン・レコリードと呼ばれる主にフランス、スペイン、ベルギー、オランダにあるヨーロッパ山道網1号の終着点でもある(GR-1と呼称され、カタルーニャ地方ジローナのアンプルダンを出発点とする)。フィステーラ岬からの眺めは、昔から巡礼者や旅行者の疲れを大いに癒してくれたに違いない。

フィステーラ岬 photo by OndasDeRuido

フィステーラ岬 photo by OndasDeRuido

フィステーラのある地域は、死の海岸(Costa da Morte)という地名を持つ。これはこの海岸付近で船の難破、遭難事故が歴史的に多いことと関係しており、現代でも事故は跡を絶たず、2002年に起きた石油タンカー、プレスティージ号の事故は記憶に新しい。バハマ国籍の石油タンカー、プレステージ号がガリシア沖航行中に船体に亀裂が入り、数日間ガリシア沖を迷走し続けた後、フィステーラ岬から234km離れた地点で船体を真二つに折りながら沈没、石油漏出事故を起こした。結果的に、約4000トンの石油が流出したとされ、スペイン北西部やポルトガル北部の海岸約300kmに石油が漂着し、生態系のみならず、漁業産業にも大打撃を与えた。ガリシア地方の海岸には、事故の記憶を忘れないようにと数多くのモニュメントが作られている。

納骨堂の遠景 photo by OndasDeRuido

フィステーラはそういう意味で死と隣り合わせの場所であると言えるが、2000年に竣工した「納骨堂」(Cementerio de Fisterra)が話題となった。建築家セサール・ポルテーラによる設計で、崖にサイコロが転がったような、現代アートのような納骨堂である。地元で取れる御影石を材料としたキューブ状の遺骨を収める箱が大西洋に向かって並んでいる。ヨーロッパの建築賞を受賞し、また全国ニュースでも取り上げられるなど注目度の高い納骨堂であるが、地元での評判はすこぶる悪く、現在でも納骨を希望する人はいないという。本来の納骨堂としての役割を果たすことはないものの、観光客や建築を学ぶ学生が頻繁に訪れる場所となっている。

石積みの土台の上に設置されている photo by orppo

石積みの土台の上に設置されている photo by orppo

大西洋を望む納骨堂 photo by orppo

大西洋を望む納骨堂 photo by orppo

しかし、セサール・ポルテーラ氏のウェブサイトに掲載されている設計趣旨文を読むと、説得力がある。通常、墓地はある一定の広さの敷地を必要とし、その場所を探すのは容易ではないが、彼の提案では、小さな単位のキューブ状の建物を分散して配置することで、地形や自然に馴染んだ墓地を実現している。また、壁を取り払ったことで、従来のように閉鎖された、どこか息苦しい場所から墓地を開放し、生者にとっても親密な場所となっている。「丘や山、川、海がこの墓地の壁であり、空が天井である」という彼の言葉の通り、死者を大自然に包み込む、死者にとっても魅力ある墓地であろう。

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<建築シリーズ記事一覧>

1:現代に完成した「未完の建築」、モンフェリの教会
2:過去と未来をつなぐ作品、アトーチャ駅
3:夢のガラスの宮殿、パラシオ・デ・クリスタルとベラスケス宮殿
4:復元された近代建築の名作、バルセロナ・パビリオン
5:日本の英知を集結した競技場、パラウ・サン・ジョルディ
6:オリンピック開催を待つ魔法の箱、カハ・マヒカ
7:アトレティコ新本拠地はオリンピックを迎えられるか、ラ・ペイネータ
8:「仮設の屋根」で闘牛場をオリンピック会場へ、ラス・ベンタス闘牛場
9:スペインを代表する土木技師トロハの最高傑作、サルスエラ競馬場
10:鉄鋼の町から観光都市へ、ビルバオ・グッゲンハイム美術館
11:カラトラバの魔法と悪夢、バレンシア芸術科学都市
12:屠蓄場を文化施設へ、マタデーロ・マドリード
13:改修プロジェクトの見本市、マタデーロ・マドリード2
14:既にそこにあるモノを分析してデザインする、メディアラボ・プラド
15:展示スペースの運営を手助けするカフェバー、Trinkhalle
16:屋根をいかにデザインするか、サンタ・カタリーナ市場
17:中庭に海を導くトリック、バルセロナ現代文化センター
18:公共建築におけるコスト管理の難しさ、メトロポール・パラソル

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