建築シリーズ6:オリンピック開催を待つ魔法の箱、カハ・マヒカ

近年では3度連続でオリンピック開催地に立候補しているマドリードだが、それ故にオリンピック開催に備えて既に建設を終えたり、改修工事に着工している競技施設がいくつかある。今回は一連のオリンピック招致運動の先駆けとして、2012年大会の招致に合わせて建設された「カハ・マヒカ」を紹介したい。

 

カハ・マヒカ photo by Fernando Carmona Gonzalez

カハ・マヒカ photo by Fernando Carmona Gonzalez

「カハ・マヒカ」はマドリード市南部のサン・フェルミン地区に2009年にオープンした、テニス競技での使用をメインとした多目的施設である。同施設では、2009年からプロテニス・トーナメントのマドリード・マスターズを開催しており、2013年5月に開催された同トーナメントでは、錦織圭選手がロジャー・フェデラー選手相手に大金星を挙げたことが日本でも話題となった。

カハ・マヒカは、スペイン語で「魔法の箱」という意味であり、それは同競技場がシンプルな直方体の建物でありながら、開閉式の屋根を備えていることに由来する。コンペによって設計者に選出されたフランス人建築家ドミニク・ペローは、この競技場が季節や日射し、気温の変化に応じて、あるいは他の競技やコンサートなど異なる用途に応じて屋根の開閉が可能な多目的施設を提案した。実際にはそれぞれ15,000人、5,000人、3,000人を収容可能な3つのスペースで構成されている。屋根の開閉の様子を説明するビデオをカハ・マヒカのウェブサイト(*1)で見ることができる。

また、カハ・マヒカは市内を南北に縦断するマンサナーレス川流域の再開発計画(*2)の一つに位置づけられていた。その計画とは、かつての鉄道線路を埋めたり、新しく橋を建設したりしながら、川沿いの地域を再整備するものであり、カハ・マヒカの周辺には屋内、屋外のテニスコートやメディアセンターの他、遊歩道のある親水公園が設けられている。カハ・マヒカはマドリードの最も現代的なスポーツ・コンプレックスであるだけでなく、市民の憩いの場でもあるのだ。

ところで、ドミニク・ペローはこれら一連の再開発計画の一つである、アルガンスエラ地区のプロジェクトにも関わった。カハ・マヒカよりマンサナーレス川沿いを数キロ北上したところに、歩行者及び自転車専用の橋を設計し、2011年に完成させている。アルガンスエラ橋と呼ばれるこの橋は、リボンのような2本の鉄骨のシリンダーが両岸から突き出たような特徴的な外観をしている。これは橋を渡る人に適度に日影をもたらすと同時に、橋の下へも日射が届くことを意図したものである。

アルガンスエラ橋 photo by Luis García

アルガンスエラ橋 photo by Luis García

マンサナーレス川沿いにはサイクリング・ロードも整備され、サイクリングやジョギング、散歩を楽しむ市民で賑わう。マンサナーレス川は市民の健康促進の象徴的な場所となっている。

注:
*1 カハ・マヒカのウェブサイト(動画はサイト右上)
*2 マンサナーレス川沿いの再開発計画を紹介するウェブサイト(英語)

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<建築シリーズ記事>
1:現代に完成した「未完の建築」、モンフェリの教会
2:過去と未来をつなぐ作品、アトーチャ駅
3:夢のガラスの宮殿、パラシオ・デ・クリスタルとベラスケス宮殿
4:復元された近代建築の名作、バルセロナ・パビリオン
5:日本の英知を集結した競技場、パラウ・サン・ジョルディ

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