建築シリーズ7:アトレティコ新本拠地はオリンピックを迎えられるか、ラ・ペイネータ

オリンピックで選手や競技同様に注目を集めるのが、大会を彩る華やかな開閉幕セレモニーである。仮にマドリードでオリンピックが開催されることになった場合、そのセレモニーや陸上競技が実施されるのが、「マドリード・オリンピック・スタジアム」(スペイン語でエスタジオ・オリンピコ・デ・マドリード、通称ラ・ペイネータ)である。このスタジアムは1994年にマドリード自治州所有の陸上競技施設として、バラハス空港に近い市東部にオープンした。その後、同競技場は2002年にマドリード市に譲渡され、現在、2020年のオリンピックに向けて改修・拡張工事が行われている。

開催決定を待たずに改修工事に着工することができるのには理由がある。実はスタジアムは改修後、地元のサッカーチーム、アトレチコ・デ・マドリードの本拠地として使用されることが決まっている。2007年に、市、アトレチコ、そしてチームスポンサーであるスペインのビール醸造会社マオウ(Mahou)の3者間で、現本拠地のビセンテ・カルデロン・スタジアムの土地の売却と、オリンピック・スタジアムへの本拠地移転についての最初の合意が交わされた。改修費用は2億7千万ユーロ(約345億円)で、ビセンテ・カルデロンの敷地の売却によってその金額を賄うことができるとされ、2015年からアトレチコの本拠地として使用されることが予定されている。

改修工事中のマドリード・オリンピック・スタジアム photo by OlimpiaYGF

改修工事中のマドリード・オリンピック・スタジアム
photo by OlimpiaYGF

拡張前の陸上競技場は、「ラ・ペイネータ(スペイン語で、くし、の意)」の愛称で親しまれており、髪飾りのくしのような形のメインスタンドが特徴的である。改修工事では、そのメインスタジアムやアクセスはそのままに、地下駐車場やスタンドの増設、全座席を覆う屋根の設置が計画されている。新スタジアムの周辺へのインパクトを抑えるため、増設されるスタンドは既存のメインスタンドより高くならないように計画され、新設される屋根はそれぞれの高さに合わせて波を打つように覆い被さり、軽やかな印象のスタジアムとなるように工夫されている。工事が終了すれば、従来の20,000人収容から67,500人収容のサッカー専用スタジアムに生まれ変わり、オリンピック開催の際には前方の座席を取り除き、陸上トラックを設置することで、60,000人収容の陸上競技場になる予定である。


改修プロジェクトを担当する建築設計事務所クルス・イ・オルティスによるプロジェクトの概要を説明するビデオ

2011年3月から開始された工事は、地元メディアにその遅れが指摘されている。アトレチコのウェブサイトに掲載されている工事の進捗状況を撮影した写真によれば、メインスタンドをのぞく既存の座席スタンドなどを撤去する作業、地下駐車場やスタジアムの基礎を設置する高さまで掘り下げる作業を終え、今年7月末現在、増設されるスタンドを支える柱の建設工事が進められていることが確認できる。このようにこれまで外部からはその進み具合を判断しにくい工程にあったと言え、マドリードのオリンピック・スタジアムがその姿を現し始めるのはこれからであろう。ちなみにアトレティコのライバルチーム、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウでは、オリンピック開催時にサッカー競技が行われる予定である。

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