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街の広場からサッカーを消した“あのスポーツ”とは?

FCバルセロナの活躍により、今やバルセロナはサッカーの代名詞となっているが、バルセロナ郊外にサッカーと人気を二分するスポーツが流行っているのをご存じだろうか。バルセロナの隣町、バダロナ市のラ・サル地区では、ここ数年広場の主役がサッカーから「クリケット」に移行しつつある。そう、あのイギリス生まれの“紳士のスポーツ”、クリケットである。 同地区周辺では、数年前から中国、パキスタン、インド、バングラディッシュといったアジアからの移民が増加している。中でも急増中のパキスタン住民は、食料品店、レストランなどを開業したり、貯蓄を不動産に投資し他の移民に賃貸したりと積極的にビジネスを展開。不況の中、「1セントでも安いパン」を求めてパキスタン人の経営する店までわざわざ足を運ぶ地元住民も増えている。個人経営の店が続々と閉業に追い込まれる中、パキスタン人の店には行列、という光景もめずらしくない。 移民社会が形成されれば、自然とスポーツチームも生まれるもの。クリケットW杯の上位常連国であるインド、パキスタンから来た人々にとって、このスポーツはまさに生活の一部だ。チームが増えれば試合もできる。試合をすれば、人が集まる。少数派ゆえ、プロリーグもなければ、大規模な大会が開催されるわけでもない。それでも、通りのあちこちには試合のポスターも貼られている 。クリケットの他、サッカーやカバディ(インドの国技)の試合まで企画されることもある。もちろん、遠国スペインの移民街にクリケットのフィールドなどあるわけがないが、野球場がなくてもキャッチボールや三角ベースができるように、子どもたちは元気に広場でスティックを振る。サッカー派はとっくにストリートから地元チームのピッチに流れてしまったのだから、スペースに不足はない。交通ルールなどあってないような国から来たアジア系移民の中に、「車が危ない」と注意する親はまずいないだろう。 サッカーに次いで2番目に競技人口の多いと言われる「クリケット」。インドとパキスタンとバングラディッシュの人口を合わせると、中国を軽く抜いてしまう。サッカー王国でクリケットはどこまで頑張れるのか。ひょっとすると、クリケットとサッカーを足した新しいスポーツが生まれる日が来るかもしれない。

もうひとつのチャンピオン

マドリードと言えば、真っ先にレアル・マドリードを思い出す人がいるだろう。しかしこの地域にはもう一つ、世界トップのスポーツクラブがある。その名は「インテル・モビスター」。フットサル(スペインだとフットボール・サラと呼ばれる)の世界で燦然とした記録を持ち続ける、世界トップクラブである。 「インテル・モビスター」は、マドリードの中心駅アトーチャからRenfe(近郊列車)で約35分の街、アルカラ・デ・エナーレスを本拠地としている。1977年に創立し、リーガが開始された1979年(1989年から現在のリーガに変更)からこれまでの23年間で、国内タイトルはリーガ17回、コパ・デ・エスパーニャ10回、スーペルコパ・デ・エスパーニャ10回、国外タイトルは、UEFAカップ4回、レコパ1回、インターナショナルカップ5回、コパ・イベリア2回を獲得。その数実に47になる。このようにインテルは国内外のタイトルを総なめにし、その経歴は他の追随を全く許していない。 しかし近年はバルセロナの台頭、ベテラン選手の移籍による若返りが続いている。昨シーズンのリーガでは準々決勝で敗退、タイトルはインターナショナルカップのみと思わしい成績を残せていない。2007-2008シーズンが最後のリーガ優勝と遠ざかっている。 今シーズンはすでに、リーガ開幕前のスーペル・コパでバルセロナを倒し、タイトル獲得の好発進。またクラブは年間パスを50ユーロ(1ユーロ105円計算で約5,250円)で販売、さらに同伴者にプラス1ユーロで年間パスを販売と太っ腹なキャンペーンを行った。それが功を奏したのか、先月のバルセロナとの大一番となったリーガのホームゲームには、 4,500名収容の会場がほぼ満員となった。結果は1対1。それでもリーガは昨シーズン同様苦戦しており、第11節消化時点で5勝3分2敗。首位バルセロナとの勝ち点8差の6位(16チーム中)と振るっていない。しかし2名のGKルイス・アマド、フアンホ、また、オルティス、アルバロ、ポラ、マトモロスとスペイン代表6名を擁すインテルの大きな巻き返しが今後期待されることだろう。スペイン代表は過去2回のワールドカップで優勝。前回の2008年ワールドカップは準優勝。次回は2012年タイ大会である。 マドリードに立ち寄った際は、サッカーだけでなく、日本でもフットサルのリーグができたことだし本場のフットサルがどういったものかを堪能してみるのもいいだろう。インテル・モビスターの入場料は通常全席自由席で7ユーロ(約735円)である。

カタルーニャ州旗掲揚も夢じゃない?- 究極の男女平等スポーツ“コーフボール”

「Catalonia is not Spain.」 FCバルセロナがビッグマッチでプレーするたびに見られるこの横断幕。いったいカタルーニャ住民の何%が本気で「スペインからの独立」を望んでいるのかは定かではないが、サッカーやバスケットボールのスペイン代表が活躍している今、表彰式で「あれがスペイン国旗ではなくカタルーニャ州旗だったら…」と幻想するカタラニスタ(カタルーニャ主義者)は少なくない。カタラン(カタルーニャ人)がメンバーの多くを占める、ローラーホッケーや水球でさえ「スペイン代表」として統一されてしまうのだから面白くないのはごもっともだが、両者の共存は難しいのが現実だ。ところが、そこでくじけないのがカタラン気質。共存がダメなら、片方ならいいはず。スペイン代表が存在しないマイナースポーツなら、カタルーニャ代表として国際大会に出ても文句は言われるまい。 こうして生まれたのかどうかは知らないが、1984年、「コーフボール・カタルーニャ代表」が誕生した。コーフ(=オランダ語で「バスケット」)ボールとはオランダで生まれた世界唯一の男女混合球技。1902年、アムステルダムの学校教師がスウェーデンの球技「リングボール」をヒントに発案したもので、チームは男女各4人の8人で構成される。各チームはリング状のバスケットにボールをシュートして得点を競うが、「パスのみでドリブルは禁止」、「ゴールの周囲360度どこからでもシュートできる」、など独特のルールがある。1920年アントワープ五輪、1928年アムステルダム五輪ではデモ競技として導入された歴史あるスポーツで、現在59の代表が国際コーフボール連盟に加盟している。ちなみに、日本代表もちゃんと存在する。カタルーニャ代表はIOC(国際オリンピック委員会)にも正式に公認されているため、将来コーフボールが五輪種目に導入されたあかつきには、世界最大の祭典で「カタルーニャブランド」をアピールできる。1%の可能性にもかけてあらかじめ手を回しておくところが実にカタランらしい。 五輪までの道のりは長そうだが、まずは世界選手権で活躍したいところ。今年のコーフボール世界選手権は、10月24日から11月6日まで中国で開催される予定だ。 ※写真提供:federació catalana de korfbal

自転車ロードレース「ブエルタ・ア・エスパーニャ」に初の日本人選手!

スペインの夏に終わりを告げる自転車プロ・ロードレース、「プエルタ・ア・エスパーニャ」が8月20日に開幕した。第6ステージの行われた25日、テレビにアップで映し出されたのは、ゼッケン172番をつけた大会史上初の日本人、土井雪広選手(スキルシマノ所属)だった。はっきりと聞こえる「頑張れ」コール。コースの両脇にはためく日の丸の旗。この日、集団から抜け出す“逃げ”を決めた土井選手に、スペイン中の自転車ファンがエールを送ったにちがいない。 ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアとともにグランツールと呼ばれるプエルタ・ア・エスパーニャ。フランスとイタリアでは過去に新城幸也、別府史之ら日本人選手が出場、完走を果たしたのに対し、プエルタ・ア・エスパーニャに出場した日本人は土井選手が初めてだった。本人はレース開幕前、スペインの自転車競技ファンに絶大な人気を誇るブログ「Sprint Especial」にも登場。国内外の有名選手へのインタビューを専門とするこのブログで、「大会初の日本人選手として、レースを思う存分楽しみたい」と初参加への意気込みを語っている。 土井選手がスペインで注目を浴びたのは今回が初めてではない。今年2月に行われたブエルタ・ア・アンダルシアの第4ステージで7位、8月上旬のブエルタ・ア・ブルゴスの第4ステージで9位と健闘した土井選手に対し、コアなファンはプエルタ・ア・エスパーニャへの出場も期待していたという。相性の良いスペインで、今度はどんなレースを見せてくれるのか。最終ステージの9月11日まで目が離せない。 ※写真提供:Sprint Especial

サッカー王国の挑戦: スペインで野球は普及する?

野球といえば、スペインではあまりなじみのないスポーツ。今年6月、FCバルセロナが予算削減を理由に80年の歴史を誇る野球部門の廃止を決定したのは記憶に新しい。以来、バルサ野球チームのファンをはじめ、スペイン野球リーグ所属の全チームが「バルサ存続運動」に立ち上がったが、その努力が報われることはなかった。バルサは最後のシーズンとなった今年、「スポーツはサッカーだけじゃない」のスローガンのもと55年ぶりのリーグ優勝を決めている。 マイナースポーツの意地を見せたのはバルサ野球チームだけではない。野球スペイン代表は7月30日、バルセロナで行われた欧州選手権予選決勝でスイスを破り、2012年9月にオランダで開催される本大会(2年ごとの開催)への切符を獲得した。スペイン代表は予選で、スイス、アイルランド、ハンガリー、フィンランドと対戦、全勝で1983年大会から連続15回目の本大会出場を決めている。 ヨーロッパで野球の強豪といえばオランダとイタリアだが、スペインもここ数年、ベネズエラ、キューバ、ドミニカ共和国など中南米出身選手の増加とともにレベルを上げ、欧州選手権では上位の常連となっている。一方で、最近は「チームワークの精神」を重視する野球が教育においても注目され、体育の授業に野球を導入する学校も増えている。目新しさも手伝ってか、マイナースポーツの中で野球は卓球と並んで生徒たちに人気がある科目だという。スペイン1部リーグの名門サン・ボイCBSとビラデカンスCBのホームタウン、サン・ボイとビラデカンス(両方ともバルセロナ郊外の町)では、週末ともなると野球場で試合をする子どもたちの姿が見られる。メンバー同士のかけ声、得点したときのハンドタッチ、スタンドの声援などは、日本の少年野球とどこも変わらない。 ところが、「ボールさえあればどこでもできるサッカーと違って、野球には人数、用具、スペースが必要」と、野球が遊びとして敬遠されがちであるのも事実。狭い路地での「三角ベース」、人数が足りない時の「透明ランナー」といった、ストリート野球ならではの遊び方が子どもたちの間で浸透するにはまだまだ時間がかかりそうだ。 サッカー王国スペインで野球が普及する日は来るのか。野球スペイン代表は子どもたちに夢を与えることができるのか。2012年、2016年の五輪競技から除外され、世界的に将来が危ぶまれている野球。復興のカギを握るのは、もしかするとヨーロッパの子どもたちかもしれない。

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