ラ・コルーニャと夏至の夜

スペイン北西部、ガリシア州ラ・コルーニャ市はビスケー湾のちょうど入り口に位置する人口25万人ほどの港湾都市だ。街が入り江の入り口にある小さな半島なので中心部が港とビーチに挟まれ、四方どこに行っても海に行き着く。

漁業が盛んなこの街の岬には2世紀頃に最初に建てられ、現存する世界最古の灯台であるローマ建築のヘラクレスの塔が建ち、灯台が放つ光の筋は夜のコルーニャの街を今も横切っている。

ビーチを見渡す海岸に建つ人間科学館は建築家、磯崎新氏の設計で1995年の開館以来、ラ・コルーニャのシンボル的建築物となっている。ガリシア産の暗緑色の天然スレートを一面に敷き詰めた細長い盾のような建物正面の曲面壁は、海と太陽光を受けて様々な光を反射する。

街の中心部には18世紀の終わりから19世紀初頭に建てられたモデルニズム建築が多く見られ、港に面して並ぶこの地域の伝統的なガラス張りのアパートは、通り一面の壁に白い窓の網目を描いている。湿度の高いこの街の早朝、湾の入り口にあるサン・ペドロ山を真っ白に染める霧は街の方へ帯をなして抜けて行く。

ガリシア州はイベリア半島で最も西に位置し、地図上ではポルトガルの真上にある。スペイン時間はポルトガルより1時間早く、スペイン時間のガリシア州の夜更けはとても遅い。夏場は夜の11時近くまで暗くならないため、夕食は大抵その時間になる。親と外食に来た子ども達が、夜の12時過ぎに広場でボールを蹴っている姿を見かけるのはここでは珍しくない。

そして、ただでさえ日の長いこの地域の“夏至の日”、さらに光を求める人々はラ・コルーニャの至る所の空き地で焚き火をして夜を過ごす。その中でも街の中心にあるビーチには多くの人が集まる。
焚き火は深い歴史と宗教による慣習から来るもので、この日を境に冬至に向かって日照時間の少なくなる太陽に更なる力を与え、さらに炎で清めたい物を焼き、人は焚き火の上をジャンプする事で自分自身を清める。
この炎の祭りは毎年6月23日の「聖フアンの夜」と呼ばれ、ヨーロッパの各地で見る事ができるが、ラ・コルーニャのそれはどこよりも最も狂った夜になる。

6月23日の午後、街の至る所から木材や様々な燃やせる物がビーチに運ばれる。街中のゴミ捨て場から拾い集めた木材をゴミ収集用の大きなボックスごとビーチまで運ぶ若者の傍ら、路上の至る所ではイワシが炭で焼かれている。
夜が更け始める午後11時頃、ビーチを埋め尽くした人々が無数の焚き火に一斉に火を点すと、全長400mほどのビーチは炎と人と音楽と酒が入り混じり、まさに狂乱と化す。
3つのビーチが連なっていて、海を正面に左から“リアソルビーチ”(ここは比較的家族連れで来る人たちが焚き火を作るので割りと静か)、真ん中が“オルサンビーチ”、右が“マタデーロビーチ”だ。この2つが若者で埋まり、そこでは何が起きてもおかしくない。

炎によって高揚した人と街は音楽と奇声を放ち、乱反射された音と赤い光の下で人々はそれぞれの半年間を振り返り、残りの半年に期待を抱く。

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