廃れゆく背広の仕立て屋

「スペインから確実に背広の仕立て屋は無くなる。」

ラ・コルーニャ市中心部にある背広の仕立て屋、「イグレシアス」のホセ・ルイス・イグレシアスさんの話しを聞いたらそう感じずにはいられない。「イグレシアス」は、創業148年のスペインで最も古い背広の仕立て屋の一つで、彼の代で4代目になる。現在77歳になるイグレシアスさんは、2012年2月をもって店を閉めることを決めた。

1864年に創業され、代々受け継がれてきたバトン。しかし、イグレシアスさんに子どもはなく、また、師匠が弟子に時間をかけて教えるという仕立て屋の世界では、外から後継者を探すのは難しい。お店のバトンを次の代に渡すことができなくなることは寂しい、という。

「イグレシアス」の閉店によりラ・コルーニャ市には背広の仕立て屋が「ガルシア・デ・ローサ」の1件だけになる。店主のセサリオ・ガルシア・デ・ローサさんもイグレシアスさんと同年齢で跡継ぎはいない。

「欧米型資本主義は衣服の大量消費という常識を生んだ。一人の仕立て職人が12日間も時間を掛けて作る一着のスーツに20万円以上も払うなら、イタリアのブランド物を買う、という人が多い。」また、「最近の消費者は、低価格のスーツを買うか、ブランド物に高額を払うかのニ択になっている」という現状を両氏とも受けとめている。

スペインで道を歩いていると、通りや広場など至るところに設置されたベンチに座っている老人をよく見かける。どこで見ても彼らはみんな、ジャケットとYシャツにズボン、という同じ格好をしている。今の若者が将来そういった格好をするとも思えないし、衣服という面では常識は大きく変化したことは明らかだ。洋服の仕立てを学びたい若者の減少により専門学校も少なくなっている。このままスペインから「仕立て屋」が消えて行くのを見ていることしかできないのだろうか。

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