快進撃の主役はモウリーニョの“操り人形”と揶揄された男

ジョゼ・モウリーニョ監督がレアル・マドリードを率いていた2010-2011シーズンから2012-2013シーズンの間、“スペシャル・ワン”の横に座る第2監督を務めていたのが、アイトール・カランカだった。バスク出身のカランカは、元スペイン代表でアスレティック・ビルバオ、そしてレアル・マドリードでプレー。1997-1998シーズンのチャンピオンズリーグ優勝メンバーのひとりで、クラブに栄光をもたらした名ディフェンダーだった。

カランカはエキセントリックで時にはメディアを敵に回したジョゼ・モウリーニョに代わって、何度も記者会見に出席。指揮官の言われたままに記者会見に出るカランカをスペインメディアが“操り人形”と揶揄することもあった。モウリーニョがレアル・マドリードを退団し、チェルシーへの移籍を決めるとフィジカルコーチ、ゴールキーパーコーチといった彼のスタッフもそのまま籍を移したが、カランカだけはスペインに取り残されてしまった。そんな彼は飼い主に捨てられた犬と評され、哀れだとインターネット上で笑いのネタにされていた。

すっかりモウリーニョの第2監督というイメージが定着していたカランカだが、そのイメージから脱却しつつある。

カランカは2013年11月からイングランド2部のミドルスブラを監督として率いている。昨シーズンこそ12位で終わったが、シーズン最初から指揮をとる今シーズンは、プレミアリーグ昇格に向けて順調な戦いを見せている。2部では2位につけ、そしてFAカップでは4回戦で現プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティに勝利し、カップ戦の醍醐味である下克上を達成している。

カランカは地元紙『エル・パイス』のインタビューでこう語っている。「僕のスタイルはモウリーニョのものか…? 私の監督のスタイルは勝利だ。選手たちがその監督といることを好むのは、監督が毎日何かを選手たちに教えているからだ。そして選手たちは毎試合、監督に何かを与えてくれる。私はそれを達成しているし、これ以上、今のチームに要求するものはない。私は私であり、41年間そうだった。だけど、今まで一緒に仕事をした全ての監督から学んできたことも確かだ。もちろん、モウリーニョからも学んだ。自分がモウリーニョの弟子と人々に呼ばれることは不快ではないし、喜びだ。多分モウリーニョにとってもそうだと思う」

カランカとモウリーニョは今でも連絡をひんぱんに取り合う仲で、マンチェスター・シティ戦を戦う前にはモウリーニョから情報を教えてもらっていた。また反対に、モウリーニョがカップ戦で下のカテゴリーのチームと戦う時はカランカが彼の求めに応じて協力している。またモウリーニョはチェルシーに在籍する3選手を成長させるためにカランカが指揮するミドルスブラにレンタル移籍させており、指導者としてもカランカを信頼している。

カランカは操り人形ではない。モウリーニョにとっては尊敬するひとりの同業者なのだろう。ミドルスブラの快進撃が続けば続くほど、モウリーニョの“操り人形”というイメージは、“監督カランカ”という画に描き変えられていくだろう。

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