『ネズミのペレス』の物語は一般庶民にも浸透し、絵本も出版され、様々な言語に翻訳された。日本語版の『ねずみとおうさま』は1953年に岩波書店が出版している。
なお、この話に登場するアレナル通りは、マドリードの中心、ソル駅から“キロメトロ・セロ(スペインの国道の起点、0Km)”に向かって右側に曲がった所。ペレス宅のあったとされるケーキ屋のあった8番地には、現在寂れたショッピングセンターがあって、その屋内には、『ネズミのペレス博物館』なるものが存在し、関連する物を展示している。小さな博物館だが、ギフトショップもあり、そこではペレスグッズが手に入る(※写真)。
国内でペレスの人気は未だ根強い。しかし、ペレスがこれからも生き続けるには、物語と主人公の設定を書き換える必要があるのではないかと思う。何故なら、この物語の世界の前提となっている君主制や王権神授説は時代遅れになりつつあるからだ。また、王子様、お姫様を主人公にした童話もアナクロになりつつある。ここには随分長いこと王が存在したが、最近、国民の中には反王政に傾倒する者が増えてきている。私の周辺には実際、王子様、お姫様の登場する物語を子どもに読んで聞かせたがらなかったり、ディズニー映画を検閲しようとする親が現れ始めている。それは、これらの物語の根底に見られる、人間の中には生まれつき特別な者=王子とそうでない者=庶民、が存在するという間違った概念を子どもに無意識のうちに植えつけないようにという考慮からだ。
誰でも、親が王である・ないに関わらず、自分自身の努力でどんな冒険も生きられる。そんな社会でなくてはいけない。これからの物語の主人公には、ほんの一握りの存在である王子よりも、人口の大部分を占める普通の子どもの方が相応しく、今の時代に即しているのではないかと私は思う。