2012年2月29日にバルセロナを訪れた人は、さぞ度肝を抜かれたことだろう。この日、政府の「教育予算削減政策」に抗議する学生7万人(警察当局発表では2万5千人)が大規模デモを行い、通りという通りを埋め尽くしたのである。とくに観光客の集中する目抜き通りでは、一部の過激派がオフィスや商店のガラスを損壊したり、路上のごみ収集コンテナーを燃やしたりするなど、警察が介入する暴動にまでエスカレート。ちょうど「世界移動通信会議」(WMC)が開催中で海外から大勢の訪問客を迎え入れていたバルセロナは、別の意味で世界の注目を浴びることになった。
学生による抗議デモはバルセロナだけでなく、マドリード、バレンシアをはじめ各都市で全国的に展開されており、教育予算削減に対する国民の不満は限界に達しつつある。
さて、これほどブーイングを浴びる政策、その実態はどうなっているのだろうか。カタルーニャ州に関して言えば、州自治府は不況対策としてここ2年間で教育費に充てられる予算を6億2700万ユーロ(12%)削減している。数字だけではピンと来ないものだが、これが具体的に何を意味するのか、いくつかの例を挙げてみよう。
・席がない!
人員削減により教師1人あたりの生徒が激増しクラスは飽和状態。バルセロナ大学では、授業によっては教室の席が足りず、床に座ってひざの上でノートをとる学生も。
・授業料が払えない!
カタルーニャ州の公立大学の授業料はここ2年で高騰、2011年度は入学金が3.6%、授業料は履修科目につき7.6%のUP。1科目で2回以上落第した場合は60%の増額。「公立の私立化」を危惧する声も。
・スクールバスが消えた!
公立小・中学校の遠距離通学者の中には、これまで使っていたスクールバスが“予算削減”により廃止され、自腹を切っての遠距離通 学を余儀なくされる生徒も。
・プレハブ組は2万人!
カタルーニャには現在、プレハブ校舎で授業を受けている生徒が約2万人以上いると言われている。中には、10年前のプレハブ校舎がまだ現役という学校も。新校舎を拝むことなく卒業する生徒たちはこれからも増えそうだ。
・なんでもやる教員
「清掃員がリストラされた公立保育園で、保育士が園の清掃をしていたところ、園児に目が届かず事故が起きた」、「用務員がリストラされた中学校で、教師が校舎の設備を修理していたところ、梯子から落ちて腰骨を折った」、などなど、教員が本職以外の仕事をさせられた結果、事故が発生するというケースは後を絶たない。
例を挙げればキリがないが、教育費削減のとばっちりをここまで受けているのだから、国民の怒りはごもっともだろう。今回のデモを受けて、カタルーニャ州長アルトゥル・マス氏はこうコメントしている。
「政府は何も気まぐれで“支持されない決断”(=教育予算削減)を下すわけじゃない。市民の“共通の利益”を守るためには、仕方のないことだ」
国の将来を背負う人材を育成するのが教育だとすれば、教育予算削減は共通の利益どころか社会に危害を加えそうなものだが、この国の将来、ホントに大丈夫?
写真出典:La voz de Rusia