コンフェデレーションズカップ決勝でブラジルに完敗し、2位に終わったスペイン代表。スペインが公式戦で敗れるのは2010年ワールドカップの初戦のスイス戦以来だ。これまでスペイン国民は代表チームの快挙に心を躍らせていた。勇気を与えられていた。経済危機が続く中、スペイン代表のフットボールは国民に大きな喜びを与え、日常の重い空気を払拭してくれていた。メジャー大会3連覇。このチームならアウェーでのブラジル戦とはいえ、勝利してくれるのではないか。1950年のワールドカップ決勝でウルグアイがしたように「マラカナンの悲劇」を起こしてくれるのではないか。そう期待した。なぜなら史上最強の代表チームはこのスペインだ。そんな自負があった。しかし、その思いは開始早々にものの見事に打ち砕かれる。
決勝はブラジルの現地時間の19時キックオフ。夏の今、ブラジルとの時差がプラス5時間のスペインは24時から生中継されていた。決勝前には日曜日の24時近くなのに外では花火や爆竹が鳴るなどスペイン人はゲームに備え、ブラジルとの対戦を楽しみにしていた。だが、試合が始まってすぐにブラジルが先制するとスペイン人はインターネットや携帯電話で不安を言い始める。誰もが自分の意見を公表できる時代だ。「ブラジルの国家斉唱はやばい。この国歌の勢い、観衆の勢いがブラジルの先制点を生んだ」と言うものがいれば、何度も決定機を迎え、ネイマールを始め、ブラジル人のアタックをファウルでしか止められないスペイン代表を見て「もう何点奪われてもおかしくない」と言う者もいた。そして前半終了間際、ネイマールに豪快に決められる。するとバルセロナ寄りの人間は右サイドバックに入ったアルベロアに非難の矛先を向ける。もっといいサイドバックはいないのか。アルベロアは道端に置かれたカラーコーンといっしょだ。ネイマールの動き直しと左足のシュートが偉大だったのに、そんな揶揄も飛び交っていた。
時間は深夜1時。それでもまだスペイン人は逆転への望みを持っていた。その期待とは裏腹に後半開始早々にブラジルが3点目を決める。すると月曜日が始まるスペイン人は「おやすみ」と別れの挨拶を始める。勝てないゲームを最後まで見ていてもしょうがない。「ちょうどよかった。これで寝れる」という負け惜しみを残していく者もいた。それでもスペインがPKを獲得した時にはまだ「おぉ、PKだ」という声が挙がったがPKが外れると多くの人がベッドに足を運んでしまったようだ。もしくはベッドに横になり、ラジオをつけていた人間もラジオを切ってしまったようだ。ピケの退場に言及する人間は少なかった。もうその時には多くのスペイン人はゲームを見ていなかったのだ。
テレビで決勝を実況する声は試合が終わると「前回のコンフェデレーションズは決勝までも進めなかった。前回よりもいい結果を残した」と言い、「この世代は優れているし、来年のワールドカップでもきっとやってくれる」という趣旨のことを話していた。この実況のコメントを試合後にも聞いていたスペイン人はそんなに多くはなかっただろう。スペインにとって悲しい夜となった。