スペインには他の多くの国と同じように、中国からの移民が非常にたくさん暮らしている。
彼らの多くは、その土地の“中国人コミュニティー”で生活しているわけだが、彼らが、衣料品や雑貨、食材を売る商店、食堂やレストランで働いている姿は容易に想像がつくかもしれない。今では、中国人専門の旅行代理店や物件紹介などもあり、中国人クリスチャンの教会や自動車学校に床屋、中国人向けの写真スタジオまで存在する。この環境であれば、その土地のコミュニティーで一生生きていけるのもうなずける。
そしてここ数年、スペイン全土の多くの場所で目立つのが、「中国人経営によるバル(BAR)」だ。衣料品店を経営していた中国人が、価格競争の不条理と品質に対する低評価に加え、不況の影響から、商売を飲食業、それも「バル」に切り替えるケースが多いようだ。スペインのバルには不況に関係なく人がいる、と早くに着目し、目星をつけたバルに出向き、“現金払い”の直接交渉を行う。そして買い取った後は、内装やメニューを変えずに、以前と同じ状態で経営を始める。そのため、(経営者が変わっただけの)バルから客が離れていくことは少ない。
スペインで「バル」というのは、人々の生活に密着した場所で、名物としても知られている。街の中心部にあるバルのように、人が入っては出て行く活気あふれるバルから、郊外の少しさびれた場所にある、いつも常連客がたむろするような“バリオ(地元)”バルまで、本当に街の至る所にある。それが現在の日本とスペインの大きな違いのような気さえする。各家庭で新聞を取る習慣のないスペインで、ゆっくりと新聞を読むことが出来るのも、例えばバルだ。
そこに目を付けた中国人は、どうやってか資金を集めてバルを買い取り、トルティージャ(スペインオムレツ)やボカディージョ(バケットサンド)を作り、コーヒーとアルコールを出して“スペイン・バル”を経営する。バルセロナやマドリードの中心部のバルでは、1500万から2000万円の現金払いの買い付けが相場のようで、その額を提示されたスペイン人所有者が売却する気持ちもわかる。一方、なかには売る気のない店主にしつこく交渉を粘るケースもあるそうだ。
このようにあらゆる商売を始めている中国人の次に多く目立つのが、「パキスタン人経営による食材店」だ。日本で言うコンビニに近いもので、スーパーや八百屋が通常閉店する夜の時間帯や日曜日にも開いている。スペインでは“パキ”と言えばコンビニ、“チーノ”と言えば百円均一のお店といった感覚が染み付いている。
この勢いはいつまで続くか分からないが、これがいまのスペインの現実だ。中国やパキスタンからの移民者は、複雑にもしっかりとスペインの大都市に既に根づき始めている。