カンタブリア海に浮かぶ波力発電所、世界初の成功

バスク地方ギプスコア県のムトリク(モトリコ)という小さな町が、今世界の注目を集めている。人口5000人あまりのこの小さな港町の名前が世界のメディアに現れ始めたのは昨年7月。この町の防波堤に建設された「波力発電所」が商用発電をスタートした頃にさかのぼる。

波のエネルギーを利用した「波力発電」はまだ世界的になじみのない発電方法だが、ここ数年、太陽熱、風力発電と並ぶクリーンな代替エネルギーとして欧州を中心に各国で開発が進められてきた。世界初の商用波力発電所としては、2008年、ポルトガル北部にスコットランドの企業Pelamis Wave Powerが設置したウェーブ・パーク発電所がひと足先に稼働していたが、技術的、経済的な問題で翌年には運転を停止してしまった。運転開始から8カ月が経過し順調に稼働を続けるムトリクの波力発電所は、まさに世界初の成功例と言える。

ムトリク発電所

ムトリク発電所

本プロジェクトはバスク州政府エネルギー局Ente Vasco de la Energia(EVE)が欧州委員会の補助のもと予算670万ユーロを投じてスタートし、昨年7月8日に運転が開始された。発電装置はスコットランドの企業Wavegen製で、波の上下振動を利用した振動水柱型発電法が用いられている。大まかな仕組みは、「波の運動による圧力から空気振動を発生させタービンを回転させる」というもの。風力発電に比べて4~5分の1の面積しか要しない(1平方kmあたり3万kW)ことが大きなメリットだが、大きな波が来るとかなりの騒音が生じるというデメリットもあり、近隣住民の要請により防音設備が整えられている。ムトリク波力発電所に設置された計16のタービンの発電量は年間60万kWhで、これは600人分の消費電力に相当する。

まだまだ規模は小さいが、バスク州産業相ベルナベ・ウンダ氏は「今後もクリーンなエネルギーによる発電量を増やしたい」と波力発電の普及に前向きな姿勢を示しており、ムトリク波力発電所が今後地元の再生可能エネルギーの担い手となることは間違いない。また、昨年7月の運転開始以来、すでに3000人がこの波力発電所を見学に訪れており、発電所はムトリクの「新たな観光スポット」としてもクローズアップされている。

波力発電の専門家によると、現在波力発電は「30年前における風力発電の開発レベル」にあるという。ムトリクの町では今、将来の“エネルギー革命”に向けた記念すべき第一歩が踏み出されようとしている。

発電所内部とタービン

発電所内部とタービン

 

写真出典:el periodico,el mundo

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