10月30日の日曜日、マドリードは何千もの羊によって占領された。実を言うとこれは、15世紀から続く伝統的行事の移動放牧が行われたからである。中世時代、羊飼いはスペイン北部からカスティヤナの平原に牧草を求めて移動放牧をしていた。そして、マドリードはその移動放牧の通り道であった。現在はこのような移動放牧を行っている羊飼いはほとんどいなくなってしまったが、マドリードは今でもこの移動放牧の通り道なのである。昨今、マドリードを通る必要もないのだろうが、この伝統を知ってもらうことを目的としてこの行事を行っているという。
普段は車で埋め尽くされているマドリード市内が、この日だけは羊が埋め尽くす。羊たちがアルカラの大通りやソル広場を埋め尽くす姿には圧巻される。羊飼い達は、伝統的な羊飼いの服を着てマドリードを羊とともにゆっくり歩いて行く。観光客の目も気にせずに道端の芝生をもぐもぐ食べている羊たちの姿はとても愛らしい。この日はマドリードから20キロほど北にある村、コルメナル・ビエホなど、様々な村から歩いてきた羊たちが集合した。リオハ地方(マドリードから350-400キロほど北にある)からきている羊たちもいたのは驚きである。
1418年、マドリードがまだ村だった時代にMesta(移動放羊組合)がマドリード村に160マラべディエス(当時の通貨)を支払い、この日曜日に羊飼いがマドリードを通過できる許可を得たことから行事が始まる。実にそれ以来この行事は続いているのである。スペインには今でも北から南へ横断する10の大きな移動放牧ルートがあり、合計124.330キロの長さになる。現在ではほとんどいなくなってしまったが、これらの移動放牧ルートを歩く羊飼いも残っていると言う。