バルセロナは下部組織重宝というイメージを守れるのだろうか

下部組織の指標や育成目的はクラブによって違いがあるにせよ、少なくとも「自分たちのトップチームで活躍する選手を育成する」という項目は共通する。昨夏、移籍市場が常識では考えられないほど高騰したゆえに、選手育成がビジネスの大事な軸のひとつと捉えているクラブも中にはあるだろうが(実際トップカテゴリーだけがないクラブもあるが)、その点はいつの時代も普遍だ。
スペインにおける下部組織の総称のひとつとして“カンテラ”と呼ばれるのは、日本にも浸透している。カンテラという単語を東洋の島国に広く普及させたのは、疑いなくバルセロナだ。グアルディオラ率いるトップチームが我が世の春を謳歌していた時に、その主軸らピッチに立つ選手がほとんど下部組織出身者であったことが大きなインパクトを持って伝えられた。さらには現在FC東京で活躍する久保建英が所属していたことも、カンテラの大きな喧伝となった。
下部組織といえばバルセロナというイメージがすっかり定着したが、その後も継続的にトップチームで活躍する選手が輩出しているかというと決してそうではない。
時の流れは早い。
時代は変わった。
今シーズンには1億500万ユーロ(約139億円)で20歳のデンベレを、1億6000万ユーロ(約212億円)で25歳のコウチーニョを獲得した。昨夏の天文学的な移籍金での契約だけではない。そのひとつ前の夏にはバレンシアから3500万ユーロ(約47億円)で当時23歳のアンドレ・ゴメス、同じく23歳のパコ・アルカセルを3000万ユーロ(約39億円)で買っている。いつしか「バルセロナ所属選手=世界選抜」となり、若く即戦力になるタレントを莫大な額で手にするようになった。チームは黄金期の影響もあり、バルセロニスタは、毎シーズン全タイトルを勝ち取らなければ満足しない。ましてや宿敵であるレアル・マドリードがタイトルを獲ろうものならば、その重圧はさらに激しくなる。ゆえにシャビ、イニエスタ、ビクトル・バルデス、セルヒオ・ブスケツ、ペドロ、チアゴ・アルカンタラ、セルジ・ロベルトが過ごしたようなトップチームで少しずつ場数を踏むという時間的余裕も、メンバー枠も今のチームにはない。
そのことは端的に表れている。
スペイン紙「スポルト」はグアルディオラ、ルイス・エンリケ、そしてエルネスト・バルベルデ監督のシーズンごとにトップチームにデビューさせたカンテラの数を比較している。グアルディオラは2008-2009シーズンに6人、2009-2010シーズンに5人、2010-2011シーズンに6人、2011-2012シーズンに5人の選手を下部組織からトップチームにデビューさせている。ルイス・エンリケは2014-2015シーズンに7人、2015-2016シーズンに3人、2016-2017シーズンに6人。エルネスト・バルベルデは今シーズン現時点で3人をデビューさせている。明らかに人数が減っている。それと同時に試される時間と試合数も限られるようになった。それぞれの監督就任初年度にデビューさせたカンテラを起用した試合数、出場時間を比較すると明確だ。グアルディオラの初年度はデビューさせた選手を48試合起用し、合計3,181分ピッチに立たせた。ルイス・エンリケの初年度は37試合1,695分、そしてエルネスト・バルベルデは現時点で7試合263分だ。カンテラの出場機会が時を重ねる毎に狭まっている。
さらに同紙はバルセロナBの最近2シーズンのメンバー構成も伝えている。バルセロナBは最近2シーズンで25人の選手を他クラブから補強し、その25名の内、現在所属しているのは14名だけで、5名はトップチームデビューを果たした。クラブは下部組織の人材を見るのではなく、他クラブからの補強に重きを置いていると示唆する。
依然としてトップチームには下部組織出身の選手が活躍しているが、「バルセロナ=下部組織」という定着したイメージを、上記した近年の数字から見て取るのは難しい。
スペイン紙「アス」は「CIES Football Observatory」の統計結果として、2009年から2017年の期間での欧州31カ国のリーグチャンピオンチームの所属選手の下部組織出身者のパーセンテージを伝える。ランキング1位は2012年のバルセロナで当時のメンバーは57,7パーセントが下部組織出身者だった。この統計での下部組織出身とは15歳から21歳の間に3年以上同クラブに在籍した選手を指す。
はたして、バルセロナはタイトルへの要求が厳しくなった現代でもカンテラを重用するという世界中に伝播したイメージを守れるだろうか。

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