無観客試合で生まれた不幸

人々の生活に密着しているからこそ、その生活で起こっていることが、もろにフットボールも影響を受ける。スペイン北東部に位置するカタルーニャ州は、10月1日にスペインからの独立を問う住民投票を強行した。中央政府はこの投票を違憲とし、警察を投票所に突入させた。投票を行いたい住民と警察が衝突するという異常な事態となった。約800人以上の負傷者が出て、その内約30人が警察だった。警察と住民の衝突風景はSNSで拡散された。その光景は異様だった。その影響を受けて、同日開催のバルセロナ対ラス・パルマスは観客をスタンドに入れずに行われた。クラブはプロリーグ機構から試合をしなければ、勝点6剥奪というペナルティとなると通達を受けていた。その一方で、住民投票のあおりを受けて、スタンドで観客同士の衝突が起こる危険性も可能性も高かった。そこでバルセロナのディレクター陣は苦肉の策として、無観客試合を敢行した。バルセロナの選手たちの大半は、プレーを希望したいという。一方でピケ、セルジ・ロベルトらカタルーニャ出身の選手はプレーを希望していなかったという。

無観客試合というバルトメウ会長の決定は、議論の的となっている。

異常事態であり、市民に寄り添うクラブであるのならば、勝点がいくら剥奪されようが試合をすべきではなかった、という地元の人の声は大きい。

と同時に地元以外からも批評の声が集まっている。

バルセロナのゲームを観戦に来ているのは、地元の人だけではない。世界各国から観戦に来ているからだ。ラス・パルマスのサポーターも然りだ。

スペインのテレビ番組「エル・ディア・デスプエス」では試合開始15分前に無観客試合で行われることが伝えられた後のスタジアム外の様子が放映された。10歳の誕生日プレゼントで、ゲーム観戦来ていたイギリス人の子供が目に涙をためながら「メッシがプレーしているのを見たかったのに」とマイクに向かって話していた。

オーストラリアのメルボンからやって来た家族も、不運だった。シュネプフ一家は、3カ月前にバルセロナを観戦するために、旅行のプランを立て、チケットも全て購入していた。なぜなら7歳の息子のルディくんが大好きな選手がバルセロナにいたからだ。彼のお目当ては、ネイマールだった。しかし、ご存知の通りのネイマールは彼らがチケットを買った1カ月後に、パリ・サンジェルマンに移籍した。昨夏にブラジル人アタッカーが、本当に移籍するとは誰も想像ができなかった。誰があんなにも高額な移籍金を払えると考えられただろうか。息子のアイドルはもういなかった。それでも家族は渡西したが、ラス・パルマス戦は無観客試合となり、スタンドには誰も入れなかった。ネイマールどころか、今所属するバルセロナの選手を誰も見ることはできなかった。

無観客試合はやはり誰にとってもいい決断ではなかった。

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