建築シリーズ2:過去と未来をつなぐ作品、アトーチャ駅

バルセロナやその他のカタルーニャの町には、ガウディや前回取り上げたジュジョールによるモデルニスモの建築が数多く残っている。そのことからスペインの建築というと、その時代の建築物、そしてカタルーニャ地方の建築物に焦点が当てられることが多い。今回はモデルニスモ建築と同時代に首都マドリードに建設された「アトーチャ駅」について紹介したい。

 

アトーチャ駅の外観 photo by Chris Tank

アトーチャ駅の外観 photo by Chris Tank

アトーチャ駅周辺にはプラド美術館やソフィア王妃芸術センターなどがあり、またスペイン国内各方面への起点となる駅であることから、市民にとってだけではなく、マドリードを訪れたことがある者にも馴染みのある駅だろう。

アトーチャ駅は1851年に開業された。当初はマドリードから南へ約40kmのところにあるアランフエス(かつての王室保養地として知られる)とマドリードの連絡を目的に開設が検討され、市中心部に最も近く、かつ居住者の少なかった市南東部のアトーチャが選ばれた。設計はフランス人技師アドルフ・ジュリアンが担当した。マドリード最初の鉄道駅となったアトーチャ駅は、その後すぐに乗降客数の増加により改築が必要となり、途中火災などを経験しながら1892年にようやく2代目の駅舎が完成した。駅舎には当時の世界の建築材料の潮流である鉄骨やガラスとともに、スペインの伝統的、且つ、安価な材料であるレンガが用いられた。大スパンを可能にする鉄骨のアーチ構造は、6車線を収容するという政府の要望に応え、全長152m、幅48m、高さ27mの巨大駅舎が誕生した。これは当時のヨーロッパの首都の駅としては最大の幅を持つ駅舎であった。

旧駅舎がプラットフォームとして利用されていた頃(1981年) photo by Smiley.toerist

旧駅舎がプラットフォームとして利用されていた頃(1981年)
photo by Smiley.toerist

その後も時代の要求に応えるために増改築を繰り返していたが、近年、高速鉄道AVEの導入に伴い、1985年から1992年にかけてAVE専用の駅と近郊線専用の駅が旧駅舎の後方に新設された。この新駅舎の設計を担当したのがスペインを代表する建築家ラファエル・モネオである。この計画の優れた点は、旧駅舎と好対照を成す現代的な駅舎だけでなく、旧駅舎を待合室を兼ねた植物園として再利用したことだろう。鉄骨のアーチとその間にはめ込まれたガラスによって達成された開放的な光に満ちた空間は、熱帯植物の温室として最適である。ここでは、都市の公共空間として、人々を長年受け入れてきた近代の駅舎空間のおおらかさを今でも感じることができるのである。

待合室を兼ねた植物園として生まれ変わった旧駅舎

待合室を兼ねた植物園として生まれ変わった旧駅舎

アトーチャ駅は2004年3月11日に起きた列車爆破テロ事件の現場ともなった。近くにはその犠牲者を追悼する記念碑も立っている。現在植物園となっている旧駅舎は建設から100年以上が経過しているが、軽快な鉄骨のアーチと重厚なレンガ壁の駅舎は、凄惨な事件をもしっかりと受け止め、過去を現在に、そして未来に伝えていくのである。

参考までに、ラファエル・モネオの代表作を以下にまとめる。

・国立古代ローマ博物館/メリダ/1985年
・セビリア空港新ターミナルビル/セビリア/1992年
・アトーチャ駅改修・新築/マドリード/1992年
・ティッセン・ボルネミッサ美術館の増築/マドリード/1992年
・サン・セバスティアン文化会議センター/サン・セバスティアン/1999年
・ロサンジェルス聖母教会/ロサンジェルス/2002年
・プラド美術館の増築/マドリード/2007年
・カルタヘナ・ローマ劇場博物館/カルタヘナ/2008年

など。1996年に建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞。現在までスペイン人として唯一の受賞者である。

・・・
<建築シリーズ記事>
1:現代に完成した「未完の建築」、モンフェリの教会

ページトップへ