建築シリーズ1:現代に完成した「未完の建築」、モンフェリの教会

在西日本人建築家による『スペイン建築シリーズ』。
シリーズ第1回目は、現代に完成した「未完の建築」/モンフェリの教会をご紹介。

スペインと聞いて思い浮かべるものは、その食文化、絵画、伝統音楽、映画、あるいはサッカーと人それぞれであろう。私は建築設計の仕事をしているが、そんな私にとってスペインの建築文化も非常に魅力的だ。スペイン建築の筆頭として語られるアントニ・ガウディの建築作品は、世界中の人々の関心を惹いてやまず、バルセロナにはその作品を見ようと多くの観光客が訪れる。現在ではガウディに関する書籍は無数に出版されており、インターネットで検索すれば読み切れない程の情報を得ることができる。

ガウディの建築は、バルセロナの、そしてスペインのハイライトの一つと言ってよいが、スペインには歴史的建造物から、現代に建てられた建築まで、ガウディの建築と同様に魅力的な建築物が溢れている。この『スペイン建築シリーズ』では、そのような「未だ広く知られていないスペインの建築物」にスポットをあてながら紹介していきたいと思う。

Exif_JPEG_PICTURE

モンセラットの山をイメージした外観

モンセラットの山(手前はモンセラット修道院)photo by Gyrofrog

モンセラットの山(手前はモンセラット修道院)photo by Gyrofrog

今回初回ということで、まずはガウディに関連した建築を一つ紹介したいと思う。ガウディに関連すると言っても、彼自身の設計によるものではなく、弟子ジョゼップ・マリア・ジュジョールによる作品だ。ジュジョールは1879年、バルセロナから南西へ80kmのところにあるタラゴナの町に生まれた。タラゴナにはローマ遺跡が多く現存し、観光客が多く訪れる町である。1906年に建築家の資格を取得した後、ジュジョールはガウディを始めとする建築家たちのコラボレーターとして活躍する。ガウディの代表作として知られるカサ・バトリョではそのファサードや装飾、家具の設計を担当し、カサ・ミラでは設計の多くを担当している。そのジュジョールが設計した教会がタラゴナ近郊のモンフェリという小さな村にある。正式名称は「モンセラットの聖母教会(Santuari de la Mare de Déu de Monserrat)」といい、教会内部にはモンセラットの聖母である「黒いマリア」が祀られている。ガウディが設計をする際にもモチーフとなった、モンセラットの山をイメージさせるような外観と、内部のハート形の色とりどりのステンドグラスが特徴的である。

色とりどりのハート形のステンドグラス

色とりどりのハート形のステンドグラス

実のところ、この教会は長い間ジュジョールによる「未完の建築作品」であった。教会建設の構想は1922年に始まり、1925年より建設が始まる。ところが、政治的、経済的理由により1931年に建設は中断されてしまう。56年後、ジュジョールは既にこの世を去っていたが、有志によって建設が再開され、それからさらに12年後の1999年に遂に完成を見た。規模は小さいが、その建設過程は、まさにサグラダ・ファミリア教会のそれを彷彿とさせるような紆余曲折があったのである。

以下、ジュジョールの代表作。

・カサ・バトリョ(アントニ・ガウディとの恊働)/バルセロナ/1906
・カサ・ミラ( アントニ・ガウディとの恊働)/バルセロナ/1908
・メトロポール劇場/タラゴナ/1908
・グエル公園( アントニ・ガウディとの恊働)/バルセロナ/1910
・トーレ・デ・ラ・クレウ/サン・ジョアン・デスピ/1913
・サグラット・コル・デ・ジェスス・ビスタベーリャ教会/ラ・セクイータ/1918
・モンセラットの聖母教会/モンフェリ/1926
・1929年万博記念噴水/バルセロナ/1927
・サンタ・マリア・デル・ピ教会のバラ窓の修復/バルセロナ/1943

スペイン建築シリーズは週1~隔週でお届けする予定です。第2回目もどうぞご期待ください。

ページトップへ