前代未聞の「人間の塔」が出現!

「異次元のサッカー選手」と言えばバルサのメッシだが、今年11月1日の「全聖人の日」、カタルーニャにもうひとつ「異次元の業」が披露された。210年の歴史を持つカタルーニャの伝統文化カステイス(人間の塔)で、前代未聞の巨大な塔が実現したのだ。「7 de 9 amb folre(セット・デ・ノウ・アン・フォルラ)」と呼ばれるこの塔は、体操でいえば「G難度」に相当しそうな離れ業。これを成し遂げたのは、今年のタラゴナのカステージェス大会(*)で2位に大差をつけて優勝した名門コジャ(カステイスの団体)、カステジェース・デ・ビラフランカだ。では、この「7 de 9 amb folre」とは一体どんな塔なのだろうか。

まず、イタリアの「ピサの斜塔」を頭に思い浮かべてみてほしい。次に、塔の傾斜を0度に正して、塔を支える1本1本の柱を人間に置き換えてみよう。1階から6階までを7人の人間柱が取り囲み、層が形成されていく。2階と3階に補強(もちろん人間)を加える。さらに、7階に4人、8階に2人を重ね、最終階の9階に1人を乗せれば、「7 de 9 amb folre」の完成だ。高所恐怖症の人なら想像に耐えないような光景だが、実演はまだ終わっていない。形成した塔を崩れ落ちないように解体しないかぎり、成功とはみなされないからだ。土台から頂上まで、一人一人のささいな動き、姿勢、呼吸が塔の完成度を左右する。もちろん、各コジャは練習と試行錯誤を重ねて実演に臨む。本番までには、綿密な計算のもとバランスを図り、組み立てと解体のリハーサルを何度も繰り返さなければならない。カステイスは言ってみれば「究極の団体競技」なのだ。

2010年11月にはユネスコの無形文化遺産にも登録されたこのカステイス、今こそカタルーニャを代表する伝統文化として注目を集めているが、1970年代くらいまでは人数も少なく、コンクールに参加するコジャ(団体)同士がメンバーを貸し出し合っていたという。フランコ独裁政権の終了とカタルーニャ民族主義の勃興に合わせるように参加人数も増え、現在は60余りのコジャが競い合うまでに発展した。今では、大きなコンクールともなれば地元テレビ局が中継を行うほどの浸透ぶりだ。

今回の「7 de 9 amb folre」のように、これまで常識では考えられなかったような塔をひとつのコジャが成功させると、他のコジャも「うちもできるかもしれない」と奮起する。カステイスでは昔から、コジャ同士が刺激し合ってレベルアップしていったと言われている。チームワークが作り出す、高く、力強く、美しい人間の塔。「重力への挑戦」はまだまだ続きそうだ。

*1932年からカタルーニャ州タラゴナ市で隔年で開催されているカステイスの重要な大会。10月の最初の日曜日に開かれる。

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※参考動画:「7 de 9 amb folre」の離れ業をご覧いただけます。
カステジェース・デ・ビラフランカ「7 de 9 amb folre」

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