ガリシアから野生の馬が消える?

スペイン北西部、ガリシア州全土の山には野生の馬が生息している。そして、それらの馬の住む山がある村々では、頭数や衛生面を管理するために1年に一度、5月から8月にかけて馬を集めて伸びた毛を刈り、焼印を押して数を数える「ラパ・ダス・ベスタス」という400年以上も続く、人間と馬とが格闘を繰り広げる「闘馬」とでも言った習慣がある。しかし、今年はその伝統的な儀式がガリシアの村から消える可能性がある。

5月中旬、ガリシア州南部、ポルトガルとの国境付近の村から始まり、週を変えて北部の村へと移動して行くこの伝統儀式は、人間と馬との自然の中での共存でもあり、それが時と共に民衆の祭りとなった。しかし今年、所有者(基本的に全ての馬には所有者がいる)に対し、州政府が「全ての野生の馬にマイクロチップを埋め込み、頭数を管理する」という新たな法令案を出した。それに反対する住民や畜産家が、5月13日、今年度最初の「ラパ・ダス・ベスタス」が行われる予定だったア・バルガ村で、歴史上初めて野生馬を集めず、事実上のボイコットを敢行した。

ア・バルガや同地方の「ラパ・ダス・ベスタス」を統括するモデスト・ドミンゲス氏は、「我々には馬にマイクロチップを埋め込むことなど全く無意味だ。それに、もしチップを埋め込むとなると多額の費用がかかる」と話し、伝統的な方法(「ラパ・ダス・ベスタス」による馬の管理)を変えるつもりのない姿勢をみせている。同地方にあるトローニャ、モウガス、サン・シブラの3ヶ所でも同フィエスタのボイコットがすでに決定されている。これに同調し、ガリシア全土で行われる14の「ラパ・ダス・ベスタス」のうち、スペイン政府による国際観光事業に指定されているサブセード以外の全ての村で、ボイコットとなる可能性が大きくなってきた。

情報によると、馬一頭に埋め込むマイクロチップにはおよそ35ユーロ(約3,500円)かかるとされ、ガリシア全土に生息する2万とも3万とも言われる野生の馬全てとなると、非常に莫大な金額になる。また、焼印を押す代わりにチップを埋めるとなると、馬の所有者たちオリジナルの焼き印もなくなることとなり、400年間守り続けてきた伝統が失われることも否めない。

ガリシア州政府は、完全に把握しきれていない野生馬の頭数や、深刻化する同地方での山火事による事故、野生馬の闇売買、馬の自動車との接触事故などを防ぐことを目的に、今回の法令案を出しているとみられるが、それ以外に、焼印や馬に飛び掛ったりまさしく罵倒したりという伝統的な管理方法に対して、動物保護団体からの反対意見があることも理由のようだ。馬の所有者や畜産家は、EUへ判断を委ねる処置をすでに取っており、EUがガリシア州政府と反対の判断を下した場合は、(この法令が却下され)来年からまた伝統的な方法で「ラパ・ダス・ベスタス」が復活する可能性もまだ残っている。

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